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【虚偽情報拡散事件】法的構成について

2019.09.17

 標記の件につきましては、定期的に個別のご質問を頂くうえに、法律家ではない人物による必ずしも正確とはいえない法的知識等が流れているとの連絡をも頂きましたので、同種事案発生の抑止の観点も踏まえ公表します。

 なお、本件のような事案においては、法律家ではなく法的知識や実務に関する知識がないのに、断片的に調べた知識を公開することによりこれがあるかのように振る舞い、誤った知識を他人に与え、そのことでかえって当該他人に損害を与える者が現れることがあります。このような者の助言に従うことは、二次的被害を生む可能性があります。

 係る事態を招くことは、当方としては全く望んでいませんが、他方で、このような者の助言に従った結果、何らかの損害が生じたとしても、当方としてはそのことを考慮する意向はありません。本件について法的知識を得たいと考える方は、お近くの弁護士会が主催する法律相談センターや法テラス、その他随時法律相談を実施している法律事務所等にお問い合わせ下さい。

 

1 女性被害者が煽り運転暴行傷害事件時に宮崎被疑者の運転する車に同乗していた女性であると指摘する記事

 投稿内容が、女性被害者を煽り運転暴行傷害事件時に宮崎被疑者の運転する車に同乗していた女性(女性被疑者)、あるいは「ガラケー女」と指摘するものにつきましては、この一点のみ取り上げても名誉権侵害は成立するものと考えています。名誉権侵害は、公然と事実を摘示し、人の社会的評価を低下させることにより成立するところ、当時の女性被疑者に対する社会的非難の高まりに照らせば、女性被害者が女性被疑者であるとの事実を公然と摘示するだけでも、女性被害者の社会的評価は低下すると考えられるからです。

 なお、名誉権侵害の成否を判断するに際し、ある投稿記事がいかなる事実を摘示しているかは、単に投稿記事の文言のみを形式的にみるのではなく、一般閲覧者がその記事を読んでどのような事実が摘示されていると認識されるかという観点から判断すべきことが、最高裁判所の判例により示されています(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集 10巻8号1059頁参照)。また、この一般閲覧者の認識を判断する際には、問題とする投稿記事の内容のみから判断できないときは、他の投稿記事の内容や、当該書き込みがされた経緯等を考慮を考慮して判断すべきことが、やはり最高裁判所の判例により示されています(最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)。

 したがって、ある投稿記事に、女性被害者が女性被疑者であると明記されていなくても、その記事やその他の記事の内容を考慮したときに、女性被害者が女性被疑者であるとの事実を摘示していると解釈出来る場合は、同じく名誉権侵害にあたると考えます。そのため、本件でもこのような内容の記事を発信者情報開示請求の対象に含めています。

 ところで、形式的に名誉権侵害の要件を満たす場合でも、その記事の内容が公共の利害に関する事実に関するもので、もっぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その違法性が阻却されます(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集 20巻5号1118頁)。しかし、本件では女性被害者は女性被疑者でないことが明らかですから、違法性が阻却される余地はないものと考えています。

 

2 女性被害者が煽り運転暴行傷害事件時に宮崎被疑者の運転する車に同乗していた女性であるとの事実を前提にして意見を述べる記事

 例えば、「(女性被害者の名前)早く出頭しろ」「(女性被害者の名前)刑務所に行け」などとする記事は、女性被害者が女性被疑者であることを前提にしたうえで「出頭しろ」「刑務所に行け」との意見を述べています。

 このような記事でも、これにより女性被害者の社会的評価が低下すれば、名誉権侵害となります。そのため、本件でもこのような内容の記事を発信者情報開示請求の対象に含めています。

 ところで、ある意見が形式的に名誉権侵害の要件を満たす場合でも、その記事の内容が公共の利害に関する事実に関するもので、もっぱら公益を図る目的に出た場合には、意見論評の前提となる事実が真実であり、人身攻撃に及ぶなど意見論評の範囲を逸脱するものでないときには違法性が阻却されます(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決・民集 51巻8号3804頁)。しかし、本件では女性被害者は女性被疑者でないことが明らかですし、安易に女性被疑者であると誤解して上記のような意見を述べることは、意見論評の範囲を逸脱するものというべきですから、このような記事についても違法性が阻却される余地はないものと考えています。

 

3 煽り運転暴行傷害事件と無関係の事柄で女性被害者を中傷する記事

 上記1,2と同じ判断枠組みを用い、名誉権侵害にあたると思われるものについては発信者情報開示請求の対象に含めています。

 

4 女性被害者の容姿等を揶揄する記事

 ある記事が他人に対し社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合には、名誉感情を違法に侵害することになります(最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)。

 本件において、具体的な事実を摘示せず、単に女性の容姿や性格等を揶揄するものであり、名誉権侵害と評価できないものであっても、本件における女性被疑者に対する社会的非難の高まりに照らすと、このような状況下において容姿等を揶揄されれることは社会通念上許される限度を超える侮辱行為であり、女性被害者に対する名誉感情の侵害にあたるものと考えます。

 

5 リツイートのみする記事について

 リツイートも、他人のツイートを引用し自ら発信するする点で、引用等をせずに自らの意見として発信する行為と質的に異ならないと考えます。そのため、リツイート元の記事が女性被害者の権利を侵害するものであれば、リツイートのみをする行為も同じく女性被害者に対する権利侵害にあたると考えます。

 なお、この点については類似の裁判例があり、先日も大阪地方裁判所がリツイートについて法的責任を認める判断をしたとの報道がされました(同裁判例では、リツイートを「賛同」する行為であるとしているようですが、本件では「拡散」する行為であると考えています。その点において、同裁判例とは認識に相違がありますが、結論は妥当であると考えます。)。

 リツイートのみすることについては、これをした人物において悪意がなかったなどとする意見も散見されますが、本件のような事案では特に、必ずしも悪意によるものではないリツイートが被害を拡大させたことが特徴として挙げられます。悪意がなかったことは情状においては考慮されるべき事情と考えられますが、法的責任を否定する理由にはなりません。この点は本件において周知したいと考えています。

以上